lesson-1_ノートの管理機能を実装しよう
📖 ノートの管理機能を実装しよう
このセクションでは、ユーザーがノートの追加・取得・更新・削除を行うための機能を実装していきます。
🛠 バックエンドキャニスターの実装
早速ですが、バックエンドキャニスターにノートを管理する機能を実装していきましょう。まずは、src/encrypted_notes_backend/src/
下にnotes.rs
を作成します。
src/
└── encrypted_notes_backend/
└── src/
├── lib.rs
+ └── notes.rs
作成したnotes.rs
の先頭に、useキーワードでファイル内で使用したい機能をインポートします。
use candid::{CandidType, Principal};
use serde::{Deserialize, Serialize};
use std::collections::HashMap;
その下に、ノートを管理する構造体を定義します。
/// IDと暗号化されたデータを持つ構造体です。
#[derive(CandidType, Clone, Serialize, Deserialize)]
pub struct EncryptedNote {
pub id: u128,
pub data: String,
}
/// notesモジュール内のデータを管理する構造体です。
/// * `notes` - Principalとノートの一覧を紐づけて保存します。
/// * `counter` - ノートのIDを生成するためのカウンターです。
#[derive(Default)]
pub struct Notes {
pub notes: HashMap<Principal, Vec<EncryptedNote>>,
pub counter: u128,
}
ここまでのコードを確認していきましょう。
最初に、様々な機能をインポートしています。
- candidは、Rustの値とCandidとの間で、データをシームレスに変換するためのモジュールです。
- serdeは、Rustのデータ構造をシリアライズおよびデシリアライズするためのフレームワークです。シリアライズとは、データ構造を適切なフォーマットに変換することで、デシリアライズとはその逆の操作です。データを変換することは、異なるプログラミング言語間でデータの整合性を維持するためにとても大切です。
次に構造体を定義しました。#[derive()]は、Rustの構造体やenumといった型にトレイト(機能)を自動的に実装するための構文です。例えばCandidTypeをderiveに設定することで、CandidとRust間のデータの変換に必要なコードを手間なく、かつ型安全に自動生成できるため、開発効率が向上します。
各ユーザーがそれぞれノートを保存できるように、マッピングを使ってnotes
を定義します。キーにPrincipal
を、値にVec<EncryptedNote>
を指定して保存します。Vecは、可変長の配列を表す型です。配列の中には、EncryptedNote
という構造体を格納しています。EncryptedNoteは、ノートのIDと暗号化されたテキストを格納する構造体です。
それでは、Notes構造体の下にimplキーワードを使用して、Notes構造体を操作す る関数を定義しましょう。
impl Notes {
/// 指定したPrincipalが持つノートを取得します。
pub fn get_notes(&self, caller: Principal) -> Vec<EncryptedNote> {
self.notes.get(&caller).cloned().unwrap_or_default()
}
/// 指定したPrincipalのノートに、新しいノートを追加します。
/// ノートのIDは、Notes.counterの値を使います。
pub fn add_note(&mut self, caller: Principal, data: String) {
let notes_of_caller = self.notes.entry(caller).or_default();
notes_of_caller.push(EncryptedNote {
id: self.counter,
data,
});
self.counter += 1;
}
/// 指定したPrincipalのノートから、IDが一致するノートを削除します。
pub fn delete_note(&mut self, caller: Principal, id: u128) {
if let Some(notes_of_caller) = self.notes.get_mut(&caller) {
notes_of_caller.retain(|n| n.id != id); // 条件式がtrueのものだけ残します。
}
}
/// 指定したPrincipalのノートから、IDが一致するノートを更新します。
pub fn update_note(&mut self, caller: Principal, new_note: EncryptedNote) {
if let Some(current_note) = self
.notes
.get_mut(&caller)
.and_then(|notes_of_caller| notes_of_caller.iter_mut().find(|n| n.id == new_note.id))
{
current_note.data = new_note.data;
}
}
}
定義した関数を順番に確認していきましょう。
まずは、get_notes
関数です。この関数は 、ユーザーのプリンシパルを引数として受け取り、そのユーザーが保存しているノート一覧を返します。getメソッドにHashMapのキー(ここではプリンシパル)を渡すことで、キーに紐づく値(ノート)を取得することができます。HashMapにユーザーがノートを保存していない場合は、空の配列を返します。
pub fn get_notes(&self, caller: Principal) -> Vec<EncryptedNote> {
self.notes.get(&caller).cloned().unwrap_or_default()
}
次に、add_note
関数です。この関数は、ユーザーが保存するVec<EncryptedNote>
に新たなノートを追加します。entryメソッドを使用することで、既存の値への変更可能な参照を取得したり、ユーザーがノートをまだ1つも保存していない場合は、or_defaultメソッドでデフォルト値(ここでは空の配列)を取得することができます。ノートを追加した後に、カウンターをインクリメントして次のノートのIDを準備します。
pub fn add_note(&mut self, caller: Principal, data: String) {
let notes_of_caller = self.notes.entry(caller).or_default();
notes_of_caller.push(EncryptedNote {
id: self.counter,
data,
});
self.counter += 1;
}
次に、delete_note
関数です。この関数は、ユーザーのプリンシパルとノートのIDを引数として受け取り、ノートを削除します。get_mutメソッドを使用することで、ユーザーが保存するVec<EncryptedNote>
への変更可能な参照を取得することができます。retainメソッドは、指定された要素のみを保持します。つまり、ここでは削除したいノートのIDと一致しないノートのみを保持します。
pub fn delete_note(&mut self, caller: Principal, id: u128) {
if let Some(notes_of_caller) = self.notes.get_mut(&caller) {
notes_of_caller.retain(|n| n.id != id); // 条件式がtrueのものだけ残します。
}
}
最後に、update_note
関数です。この関数は、保存されているノートを引数で受け取ったノートで更新します。更新するノートはfindメソッドを使用して、IDをもとに探します。
pub fn update_note(&mut self, caller: Principal, new_note: EncryptedNote) {
if let Some(current_note) = self
.notes
.get_mut(&caller)
.and_then(|notes_of_caller| notes_of_caller.iter_mut().find(|n| n.id == new_note.id))
{
current_note.data = new_note.data;
}
}
ここまでで、ノートを管理する構造体とそれを操作する関数が定義できました。
次はlib.rs
を更新して、notesモジュールの関数を呼び出しましょう。下記のコードでlib.rsを上書きします。
use crate::notes::*;
use candid::Principal;
use ic_cdk::api::caller as caller_api;
use ic_cdk_macros::{query, update};
use std::cell::RefCell;
mod notes;
thread_local! {
static NOTES: RefCell<Notes> = RefCell::default();
}
// 関数をコールしたユーザーのプリンシパルを取得します。
fn caller() -> Principal {
let caller = caller_api();
// 匿名のプリンシパルを禁止します(ICキャニスターの推奨されるデフォルトの動作)。
if caller == Principal::anonymous() {
panic!("Anonymous principal is not allowed");
}
caller
}
#[query(name = "getNotes")]
fn get_notes() -> Vec<EncryptedNote> {
let caller = caller();
NOTES.with(|notes| notes.borrow().get_notes(caller))
}
#[update(name = "addNote")]
fn add_note(encrypted_text: String) {
let caller = caller();
NOTES.with(|notes| {
notes.borrow_mut().add_note(caller, encrypted_text);
})
}
#[update(name = "deleteNote")]
fn delete_note(id: u128) {
let caller = caller();
NOTES.with(|notes| {
notes.borrow_mut().delete_note(caller, id);
})
}
#[update(name = "updateNote")]
fn update_note(new_note: EncryptedNote) {
let caller = caller();
NOTES.with(|notes| {
notes.borrow_mut().update_note(caller, new_note);
})
}
順番にコードを確認していきましょう。
useキーワードを使用してnotesモジュールをインポートしています。これは、notesモジュール内で定義された構造体や関数をlib.rsから呼び出すために必要です。
use crate::notes::*;
その下に、modキーワードを使用してnotesモジュールを定義しています。これは、notesモジュールが別ファイルに定義されていることをコンパイラに伝えるために必要です。
mod notes;
次に、thread_localマクロとRefCellを使用して、Notes構造体をグローバルで変更可能なステートとして定義しています。
キャニスターはステートを維持し、複数のリクエストを効率よく処理するために、グローバルで可変なステートが必要です。
Rustでは、これを実現する方法が複数ありますが、いくつかの方法はメモリ破壊につながる可能性があります。thread_local!とCell/RefCellは、可変性とスレッド安全性をバランス良く提供するため、これらを合わせた方法が推奨されています(詳しくはこちら)。
thread_local! {
static NOTES: RefCell<Notes> = RefCell::default();
}
その下に、caller関数を定義しています。caller関数は、関数を呼び出したユーザーのプリンシパルを取得するために使用します。プリンシパルは、ユーザーを一意に識別するためのアドレスのようなものです。caller_api
関数で取得したプリンシパルが匿名(認証されていないID)である場合、エラーを返します。
fn caller() -> Principal {
let caller = caller_api();
// 匿名のプリンシパルを禁止します(ICキャニスターの推奨されるデフォルトの動作)。
if caller == Principal::anonymous() {
panic!("Anonymous principal is not allowed");
}
caller
}
最後に、Notes構造体を操作する関数(ノートの取得・追加・編集・削除)を呼び出す関数をそれぞれ定義しています。
#[query(name = "getNotes")]
fn get_notes() -> Vec<EncryptedNote> {
let caller = caller();
NOTES.with(|notes| notes.borrow().get_notes(caller))
}
...
ここまでで、ノートを管理するバックエンドキャニスターの実装は完了です。